心臓リハビリテーション(運動療法について)
心臓リハビリテーションとは
心筋梗塞、狭心症など心疾患をお持ちの患者さんは病気による症状や入院による長期間の安静の影響で運動能力や体の調節機能が低下しています。心臓リハビリテーションでは心疾患の患者さんに運動、指導を行いスムースな社会復帰や再発予防のお手伝いをします。
医学的には以下のような定義になります。
医学的な評価、運動処方、冠危険因子の是正、教育およびカウンセリングからなる長期にわたる包括的なプログラムである。このプログラムは、個々の患者の心疾患に基づく身体的・精神的影響を出来るだけ軽減し、突然死や再梗塞のリスクを是正し、症状を調整し、動脈硬化の過程を抑制あるいは逆転させ、心理社会的ならびに職業的状況を改善することを目的とする。「米国医療政策研究局(AHCPR)の臨床診療ガイドライン(1995)より」
心臓リハビリテーションは運動療法のみならず、教育やカウンセリングなど多要素のアプローチが含まれています。
心臓リハビリテーションは病気の時期によって内容が異なります。その時期により三つに区分されています。
第1期(急性期) | 心筋梗塞の発病から1~2週間で急性期治療とともに、段階的にリハビリでの活動量を増やしていきます。リハビリの目標は日常生活の自立、そして退院です。 |
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第2期(回復期) | 発病から2~3か月で、リハビリの場所は外来リハビリ、在宅リハビリに移ります。リハビリの目標は社会、または職場復帰です。そのための積極的な運動療法、そしてカウンセリングにより職場復帰の問題、不安などの心理的問題などについて解決します。 |
第3期(維持期) | 社会復帰後から引き続き生涯にわたり良好な身体・精神機能を維持するためのリハビリが必要です。在宅あるいは地域の運動施設などで運動療法を継続する一方、再発予防のための食事療法や禁煙を続けます。この時期の目標は生涯にわたる快適生活の維持です。 |
当院での心臓リハビリテーションは主に急性期を担当しています
心臓リハビリテーションの効果
- 体力が回復し、スムースに動けるようになります。
- 筋肉や骨が鍛えられ、疲れにくくなるとともに心臓の働きを助けます。
- 動脈硬化のもととなる危険因子(高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満)が軽減します。
- 血管が柔らかくなり、循環が良くなります。
- 呼吸がゆっくりとして、息切れ感が軽減します。
- 自律神経を安定させ、動悸や不整脈が軽減します。
- 不安やうつ状態が改善し気持ちが晴れやかになります。
- 心筋梗塞の再発や突然死が減り、死亡率が減少します。
心臓リハビリテーションを行うことにより
動作が楽に行えるようになり、快適な生活が送れるようになります
当院での心臓リハビリテーション
病棟でのリハビリについて
病棟看護師が主となって、離床(ベッドから体を起こすこと)を行ないます。必要に応じて理学療法士が介入して早期離床を図るようにします。ベッドでの安静状態が長期に続く事によって引き起こされる心身のさまざまな低下(廃用症候群と呼ばれ寝たきりの原因となります)を予防し、まずは基本的な動作能力(起きる→座る→立つ→歩く)の向上を図ります。
リハビリテーション室でのリハビリについて
離床が進むと、病棟でのリハビリからリハビリテーション室でのリハビリへと進め、本格的な運動を開始します。ストレッチ体操や筋力トレーニング、歩行練習、エルゴメーターやトレッドミルを使用した運動を医療スタッフの監視のもとで行います。運動療法中には胸痛、不整脈、心臓発作などが起こる可能性がありますので救急機器を整備するとともに心電図をモニターしながら運動を行います。週に3回、30分~1時間程度の運動を実施します。退院時には自宅での運動療法のやり方について指導します。また低下した体力を安全な方法で回復させるために下記の方法で運動負荷量を決めています。
運動負荷量の決め方
自覚的運動強度
右表は運動中に感じる運動の「きつさ」を表現したものです。この表で「11 楽である」~「13 ややきつい」と感じる程度の運動が適しています。それ以上の運動になると心臓への負担がかかりやすいと言われています。
自覚的運動強度の「11~13」を示す運動の強さがATレベル*注)の運動強度に相当すると言われており、当院では自覚的運動強度を目安に負荷量を設定しています。
※ATレベル:有酸素運動から無酸素運動が加わる直前の運動の強さの事で、この値を超えると血中の乳酸濃度が上昇し疲労が蓄積され心臓に負担がかかります。
心疾患の患者さんに安全で最適な運動強度はAT値以下と言われています。
20 もうだめ 19 非常にきつい 18 17 かなりきつい 16 15 きつい 14 13 ややきつい 12 11 楽である 10 9 かなり楽である 8 7 非常に楽である |
脈拍数
運動負荷試験を行い、心臓に負担のない脈拍を設定し、安全に運動を行います。
自宅で出来る運動について
どんな運動が適しているか?
酸素を十分に取り入れて行う有酸素運動と呼ばれる持久的な運動が効果的と言われています。
具体的にはウオーキング(早足歩き)、自転車こぎ、ストレッチ体操、筋力トレーニングなどです。
軽い水泳やゴルフなども注意すれば可能な場合もあります。主治医に相談してから行ってください。
運動の強さについて
下表は運動強度に対応する年代別の脈拍数を示した表です。有酸素運動は精一杯の運動の40~60%程度(下表■の部分)で行うのが良いと言われています。
この状態は感覚的に言うと「多少息切れはするものの、人と話しながら続けられる程度の運動」です。
その運動強度に対応する年代別脈拍数を下表■の部分に示しています。この範囲におさまるようにチェックしながら運動を行いましょう。
脈拍が上がらないようにするお薬を服用されている場合は注意が必要です。
運動強度に対応する年代別脈拍数
運動強度 | 最大 | 強い | 中等度 | 軽い | |
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割合(%) | 100 | 80 | 60 | 40 | 20 |
20~29歳 | 190(32) | 165(28) | 135(23) | 110(18) | 100(17) |
30~39歳 | 185(31) | 160(27) | 135(23) | 110(18) | 100(17) |
40~49歳 | 175(29) | 150(25) | 130(22) | 105(18) | 95(16) |
50~59歳 | 165(28) | 145(24) | 125(21) | 100(17) | 80(13) |
60歳以上 | 155(26) | 135(23) | 120(20) | 100(17) | 80(13) |
どの位の時間続けるのが良いか?
最初は15分位から始め徐々に時間を伸ばしましょう。
最終的には30分以上が目標です。15分の運動を2回に分けて行っても構いません。
運動の強さを上げるより時間を少しずつ伸ばしていきましょう。
週に何回位運動するのが良いか?
週に3~5回位が続けやすく効果が得られるでしょう。
運動をする時に気をつけることは?
- 無理をしない。睡眠不足や風邪気味の時など体調が悪い時は行わないようにしましょう。
- 必ず準備体操や整理体操を行ないましょう。
- 食後2時間以内、入浴後は運動を避けましょう。
- 前日の疲れが残っている場合は運動量が多すぎます。やや軽めにして運動を行いましょう。
- 運動中に胸痛、動悸、強い息切れ、脈の結滞、頭痛、冷や汗、筋肉・関節の痛みなど通常と異なる症状が出た場合は運動を中止しましょう。
- 高温、多湿では同じ運動でも心臓への負担が大きくなります。脱水に注意して水分補給しましょう(主治医から水分制限されている場合は注意しましょう)。反対に低温下での運動はマ、手袋など防寒に心がけましょう。